Meta:Interview with Koichi Nakamura and Seiichiro Nagahata
This Q&A was posted to the website news.denfaminicogamer.jp by on March 7, 2016.[1][2][3]
Questions and Answers
聞き手/稲葉ほたて、TAITAI、日詰明嘉
文/稲葉ほたて
カメラマン/増田雄介
過去の名作ゲームの企画書を見せてもらい開発秘話を聞くシリーズ「ゲームの企画書」。連載3回目となる今回は、「不思議のダンジョン」シリーズを手がけてきた、スパイク・チュンソフトの中村光一会長とディレクターである長畑成一郎氏に話を聞いた。
「1000回遊べるRPG」という衝撃的なキャッチフレーズで登場した『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』から、20年の時が経った。
パソコンゲームの名作『ローグ』のシステムを換骨奪胎し、親しみやすいキャラクターで『ドラクエ』ファンにアピールすることに成功した本シリーズは、現在も多くのファンを魅了し続けている。
そんな本シリーズのインタビューだが、スパイク・チュンソフトの中村光一会長にインタビューをお願いすると、「ぜひ本シリーズ開発者の長畑氏を同席させてほしい」との依頼が来た。
長畑氏はチュンソフトに経営企画の人材として入社しながら、『不思議のダンジョン』シリーズの企画を発案し、その後も長年にわたってこのシリーズを手がけているという人物である。しかし、中村氏が長畑氏の同席を依頼してきたのは、それだけが理由ではないようだ。というのも、この『不思議のダンジョン』というシリーズの、あの私たちが飽きもせず繰り返し遊んできた絶妙のゲーム設計は、長畑氏という一人の人物の職人的なある種の技能によって生み出されているらしいのである。
一体、どういうことなのだろうか――そう疑問を覚えつつ取材に向かった我々は、長畑氏の職人芸とでも言うべき数値調整のテクニックの数々を聞くことになったのである。「1000回遊べるRPG」の背後に秘められた、鬼のようなこだわりはいかなるものだったのか。長畑成一郎氏とスパイク・チュンソフトの中村光一会長に、その秘密を聞いた。
『ローグ』の面白さに魅せられた
Q: 今日は『不思議のダンジョン』について話したいのですが、中村光一さんにご相談した際に、ぜひ長畑さんを同席させてほしいと言われたんですよ。
中村氏: ええ、長畑は僕の大学時代からの知り合いで、『不思議のダンジョン』シリーズに最初から関わっております。正直に言って、長畑なしには、あのゲームを作るのはかなり困難でして……。
長畑氏: いや、いや、そんなことはありません。確かに特殊なところはありますけれども。
中村氏: うーん、どうだろう(笑)。
Q: どうなんでしょうか……おいおい聞かせていただければと思います(笑)。そもそも、『不思議のダンジョン』はどういう経緯で作られたんでしょう。
中村氏: 企画の最初から順を追ってお話しすると、当時チュンソフトは初のパブリッシャー作品である『弟切草』(※)をリリースした直後で、次作の仕込みをしていたんです。もちろん、サウンドノベルの新作も企画していましたが、他にも何か良い題材はないかと思って意見を募ってみたんです。そうしたら当時、経営企画室にいた長畑から「ぜひ『ローグ』をやりたい」という提案を受けたんです。
※『弟切草』 1992年にスーパーファミコンで発売された、チュンソフト初の自社ブランド作品。サウンドノベルシリーズの第一作でもある。その後のノベルゲームの隆盛に大きな影響を与えた。
長畑氏: 私は中村と同じ大学にいたのですが、そこの研究室で『ローグ』(※)にハマってたんです(笑)。
※『ローグ』 ダンジョン探索型のコンピュータRPG。初版はUNIX上のライブラリで開発されて、1980年に公開されている。アスキー文字でグラフィックを表現している。インタビューでも後に語られるように、『ローグ』そのものは単にダンジョンを潜っていって途中で死んだらゲームオーバーになるというゲームである。
当時は、ちょうどRPGの元祖である『ウィザードリィ』や『ウルティマ』、そしてまさにチュンソフトの『ドラゴンクエスト』(以下、『ドラクエ』)がようやく出てきた頃でした。でも、あれはグラフィックが特になくてアスキー文字だけで全てが表現されていて、そういう中を歩きまわってダンジョンに入ってモンスターと戦うわけですよ。その見た目が何よりもまず新しく映り、やがてゲームとしての面白さに夢中になりました。
ところが、卒業後にゲームと関係のない業界でしばらく働いたあとでチュンソフトに入社してみたら、まだ『ローグ』がコンシューマーで出ていないと気づいたんです。そんな最中に先の社内募集があったものだから、真っ先に『ローグ』を提案しました。
Q: その時点で長畑さんは経営企画室の社員だったと聞きました。事務方の人がそういうゲームを提案してくる雰囲気が少々わからないのですが……。
中村氏: 当時は、まだ会社も小さくて「みんなで作っていこうよ」という空気だったんですよ。とにかく集まったメンバーで会議をやって、「これ絵的にイケるの? ちょっと聞いてみよう」なんて言って、いきなりデザイナーさんを呼び出したり……そんなノリの時代です。
長畑氏: で、聞き終わったら「もういいや。さあ仕事に戻って」とか言ってね(笑)。なんだか勢いのある時代でしたね。 一応言っておくと、現在のゲーム開発では、稟議や予算を通していくプロセスを踏むのが普通ですし、スパイク・チュンソフトもそうなんですよ。でも、当時は中村が「面白い」と言えば、「やっちゃえ、やっちゃえ」という感じで、いきなりブレストに入ってしまうんです(笑)。作業分担も明確ではなくて、プログラマがディレクションも兼ねていたり、デザインの専門職なんて人もいなかったり……そういう今では考えられない話があり得た時代でした。 この企画が通ったのには、そういう背景もあったと思いますね。まあ、僕としては『ドラクエ』のようなRPGに比較して、『ローグ』ならグラフィックの工数がかからなそう、という計算もありましたけど(笑)。
中村氏: 実は『ローグ』という存在を知ったのはそのときだったのですが、僕としては「長畑が言うんだから、絶対に面白いはずだ!」という気分でした。というのも、長畑が「面白い」と言うゲームは、それまでビデオゲームに限らず、あらゆるジャンルで全て面白かったんですよ。 それで、さっそく『ローグ』を始めたのですが、これがもう……何が面白いのかよくわからなかったんです(笑)。
中村氏:かなり長いあいだ、「長畑が言うのだから」と我慢していたんですよ(笑)。だって、まず『ローグ』って、アイテムを取ってもそれが何かよくわからないじゃないですか。いわゆる「未識別」の状態ですが、当時の僕からすれば「なんじゃこりゃ……」ですよ。
ところが、あるとき「未識別」の同じアイテムを2つ持っているときに、片方を使ったらもうひとつのアイテムも識別されたんです。
その瞬間、「あ、このアイテムが何かわかったぞ」と思って、今度は意識的に同じアイテムをふたつ溜め込むようにしてみたら、もうどんどん進めるんです。そのときに、僕の中で「これは自分で戦略を見つけて、自分のスキルを高めて楽しむRPGなんだ」という理解が生まれたんです。
Q: まさに普通のRPGとは違う『不思議のダンジョン』ならではの面白さですね。
中村氏: ええ。『ローグ』はレベルが上がらないし、毎回死ぬたびにリセットされてしまう。でも、プレイすればするほど、上手な戦略が見つかって巧くなっていく。しかも、ステージも毎回違うから、覚えたからどうにかなるものでもないので、ますますスキルが問われていく。ああ、このゲームは面白いな、と思いましたね。
そして、「ぜひこの面白さをコンシューマーの世界に持ち込んでみたい」と思うようになったんです。
Q: とはいえ、商業としては相当に挑戦的な企画ではありますよね。
長畑氏: まあ、僕は提案したものの、ここまで売れるとは思ってなかったですからね(笑)。
中村氏: えええ、そんなふうに思ってたの(笑)!?
一同: (笑)
長畑氏: やっぱり、新しいゲームには常につきまとう問題なのですが、賛否が分かれていたんです。企画を出したときには、新規のシステムで勝負を賭けるということに対して、「チュンソフトらしいね!」という声も出て、盛り上がったんですよ。
ところが、開発が進むにつれて、どんどん社内が戸惑っていくんです。しまいには、「これはイケる」「いやダメだ」みたいな話すらなくなり、みんな意見を言えないレベルになってしまった。もう当時は、胃が痛い毎日でしたよ(笑)。
Q: でも、長畑さんとしては、この面白さには自信があったわけですよね。
長畑氏:ええ。やはり、僕も『ローグ』の戦略の要素は面白がっていましたから。
例えば、強い敵を遠ざけたい時に、弱い敵を自分の周りに固めてしまえば、強い敵からの攻撃は間接的に防ぐことができるじゃないですか。ああいうことを思いつくのが、本当に面白かったんですね。
中村氏: そうそう。あとは、自分のスピードが早くなるか敵が鈍足になると、叩いて一歩下がるのを繰り返せばノーダメージで敵を倒せてしまう、とかね(笑)。今となっては常識みたいなテクニックですが、それを自分で発見したときに「あ、そういうことか!」と感動した記憶があります。
Q: そういうテクニックって、実は『ローグ』が「同時ターン制」を採用した珍しいデジタルゲームだからこそ出てきたものかもしれないですね。
長畑氏: 実際、私の考える『ローグ』の面白さは、相手の動きを鈍くして自分のターンを稼いでいくような面白さでしたからね。あのシステムからは、そういう戦略が次々に生まれてくるんです。
Q: ダンジョンRPG風の見た目なのに、まるでシミュレーションゲームのように、自らのスキルを上げて、新しい戦略を開拓していく面白さがあるというか。
長畑氏: まさに、そうだと思います。ですから、『不思議のダンジョン』の開発時に考えたポイントの一つが、少しでも戦略の幅を広げられないかということでした。例えば、『ローグ』ではHPが無くなったときに、敵と出会ったときの対処法はほぼ定型化されていたんですね。それが、例えばアイテムが敵に投げて効果が出るようになると、まず自分のHPを回復する以外の選択肢が増えていきます。そういう戦略を見いだせる仕様はかなり積極的に追加しました。
ただ、そういうターン制の部分での戦略を計算して楽しむのは、『ローグ』の楽しさの一部に過ぎないと思っています。実のところ、中村の言う「未識別アイテムが判明していく」ような面白さは当時の私にはあまりピンと来ていなかったんです。でも、今にして思えば、若かりし頃の私がハマっていた要素こそが全体のゲーム設計においては些末事だった気がしますね。
中村氏: でも、やっぱり『ローグ』の楽しさをとことん知り抜いてるのは、社内では長畑でしたからね。自然な流れで、彼が担当者になったと記憶しています。
長畑氏: 第一作の『トルネコの大冒険』(以下、『トルネコ』)については、最初に別のスタッフが調整してみたのですが、上手く行きませんでした。そこで、『ローグ』をやり込んでいる私が数値調整をするべきだろうとなったんですね。
Q: どういうふうに調整されたのでしょうか?
長畑氏: まずは、紙に「このフロアでレベルがこのくらいの強さになればいいはずだ」という平均的な数値を書いてみたんです。次に、その数値を反映したダンジョンを作ってもらい、実際に潜ってみて自分のイメージと合っているかをざっくりと判断していきました。
こうやって作っていくと、今度はだんだんゲームがどういう場面で破綻するのかが見えてくるんです。
例えば、あるフロアで無限に経験値を稼げたりする可能性が出てきたら、それを潰したりね。風が吹いてきて、強制的に下の階に降ろされる仕組みなんかは、まさにその問題を解消するために入れたものです。こういうことを、周囲のプレイの反応を見ながら地道に考えていくんです。
ローグのとっつきにくさ解消法――1.ドラクエを使う
Q: それにしても、実は、このインタビューの前に『ローグ』を改めてみんなでプレイしてみたのですが、本当に無骨なゲームですよね。おかしな言い方ですが、これをよく『トルネコ』にまで"翻訳"したなと思ったんです。
中村氏: やはり『ローグ』というのは、それまでのRPGの概念を一から変えてしまう作品なんです。だから、どうすれば受け入れられるかは考え抜きました。
そこで、堀井雄二さん(※)にお願いして、まずは『ドラクエ』を使わせていただきました。
当時もう既に『ドラクエ』がRPGの基本イメージとして確立していて、「"くさったしたい"は毒の攻撃をする」とか「"やくそう"でHPが回復する」というのは、説明なしでも分かるプレイヤーが沢山いたんですね。この『ドラクエ』の持つ「共通認識」を使えば、この分かりづらいゲームの受け入れやすさがグンと上がるんじゃないかと思ったんですよ。
※堀井雄二 アーマープロジェクト代表取締役。「ドラゴンクエスト」シリーズ生みの親であり、『ボートピア連続殺人事件』や『いただきストリート』など、手がけたゲームは多数。チュンソフトは「ドラクエ」シリーズ五作目までの開発を手がけている。
Q: なるほど。確かに、理解がスムーズですよね。タダでさえ分かりにくいゲームですから、ありがたいです。
長畑氏: そういう部分で受け入れる敷居を下げていくのは、ゲーム開発においてとても重要です。
……でも、中村の今の言葉は、当時の実情をだいぶ綺麗に言っている気がしますけどね。だって、実際には、我々にはそもそも『ドラクエ』しかIPの選択肢がなかったんですよ(笑)。あの当時、ゲーム業界の中では、チュンソフトなんて弱小もいいところでしたから。じゃあ、『ゼルダ』を使えるのかと言ったら……。
中村氏: ……うーん。まあ、確かにそりゃ無理だったよね(笑)。
Q: (笑)。でも、たった一枚しかないけれども、手にしていたのは最強のカードだったとは言えますよね。
長畑氏: やはり『ドラクエ』の世界観がなかったら、このゲームは箸にも棒にも引っかかっていなかった可能性は高いです。あんなに売れるとは思ってもいませんでしたから。本当に「さすがドラクエ!」という感じでしたね。
Q: ちなみに『ドラクエ』のなかでもトルネコというキャラクターを選んだのはどうしてだったんですか? そんなに人気があったように思えないのですが。
長畑氏: うーん、まったく人気がなかったわけではないけど……。
中村氏: ちょっと変わった存在だよね、という意味での人気だったと思います。毎回、何かしらの道具を使うので、「道具の達人」というイメージで行くなら、やっぱりトルネコだろうなと思いました。
長畑氏: このゲームは、格好をつけてバッタバッタと敵をなぎ倒して行く類のものではないんです。アイテムをやり繰りしていて妙にせせこましいし、そもそもアイテムを使うこと自体が他力本願にも見える。しかも、時には逃げるし、ダンジョン内ではしょっちゅうヘンテコな死に方をする(笑)。
そういう意味で、格好いい勇者よりは、コミカルなキャラの方が似合ってるんです。『トルネコ』のあとに、シレンというキャラクターに行き着いたのも、その辺のニュアンスを考慮してのものです。
Q: でも、シレンの見た目は、コミカルというよりはクールな印象がありますよね。
長畑氏: 見た目については、「木枯らし紋次郎」を意識した影響ですね(笑)。ただ、顔を隠して表情を見えないようにしてしまったのは、クールな印象が強くなりすぎてしまったし、演出も弱くなってしまったので、大きな反省点です。実際、その後のシリーズでは、三度笠を背負って顔を出すようにしています。
まあ、インタビューですからこんなふうに話していますが、当時のことを思い返すと色々と至らない部分は多いんですよ。チュートリアルも、今から見ればすいぶんと不親切ですからね……。
中村氏:「説明書を読んでおいてね」という想定で作っていた時代でしたね。そもそもチュートリアル自体が、ほとんどのゲームになかったですし。
長畑氏: 当時はメモリが少なかったのもあるんですけどね。チュートリアルを入れるくらいなら、少しでもゲームを面白くする方向にコストをかけようという空気はありましたね。
ローグのとっつきにくさ解消法――2.手触り感を徹底的に高めた
Q: 『トルネコ』に話を戻しますが、『ドラクエ』を取り入れて企画面での敷居を下げたのと同時に、ゲームそれ自体がかなりの工夫の産物であるように思うんです。
中村氏: 『ローグ』のとっつきにくさの敷居を下げようとするうちに、色々な要素が付加されていきましたからね。 例えば、堀井雄二さんから「"未識別"という概念をいきなり理解するのは難しいよ」というアドバイスを頂いて、未識別アイテムはクリア後にプレイする『もっと不思議のダンジョン』の方で大きく扱いました。村にお店を置くことで、ダン ジョンにアイテムを持ち込めるようにしたのも大きな変更点です。あれで、だいぶ広くプレイしてもらえる素地ができたと思うんです。
長畑氏: 操作性についても、PCに比較してかなり向上したと思います。
企画段階から、スーパーファミコンのコントローラーを使えば、Bダッシュでの移動ができるだろうし、ウインドウを開いて道具を使うのもスムーズになるだろうと期待していましたが、思った以上に色々な工夫ができました。
Q: 以前、ニコニコ自作ゲームフェスの選考会で、中村光一さんからダッシュの気持ちよさに徹底的に拘ったという話をお伺いしました(※)。
'''中村氏''':(略)例えば「不思議のダンジョン」のシリーズで、僕はBダッシュでマップを回れるスピード感とアイテムを選ぶ際の速度に、もう徹底的にこだわり抜いたんです。特にシリーズ初期は、そうでした。 '''TAITAI''': ゲームの"手ざわり感”みたいな部分のお話ですよね。 '''中村氏''': そう。コンピュータゲームは中身のルールも大事だけど、まずは触っているだけで気持ちいいことが重要なんです。それまでのローグ系のゲームで、あれほど高速でダンジョンを進む作品はなかったと思います。でも、あのゲームを繰り返し遊べるのは、ガーッとスピードを上げて走り回るのが気持ちいいからなんですよ。もしあれが、必ず一歩一歩進んでいたらと考えてみてください。とても何回もプレイできない。もちろん、これはルールのような内容の面白さとは別の話ですが、やはりゲームには求められるんですね。 【ほぼ全文公開】ドラクエ開発者、ファミ通元編集長、シュタゲ作者が5時間に及ぶ激論――ニコニコ自作ゲームフェス4最終選考会の内容を掲載【前編】より引用
長畑氏: ダッシュの際に、キャラが移動する間のスクロールを全部カットしたんですよね。
中村氏: マップ上では点が動いているのですが、動いた結果は止まったときに画面に反映されるんです。最初はキャラクターがスクロールする動きも作ってみたのですが、どうしても遅さのようなものを覚えて気持ち良くなくて、この見せ方にたどり着きました。この動きであれば、移動の気持ちよさだけで遊び続けられるんです。
Q: 『不思議のダンジョン』をプレイしている人ならば、共感できる気がしますね。これはもう単に操作性を向上させたに留まらない、ほとんど病みつきになるような新しい気持ちよさですよね。
長畑氏: 他にも、レスポンスの良し悪しについては、かなりこだわっています。
例えば、ゲームでは一般的にウインドウが開くところにアニメーション演出をよく入れます。スーパーファミコン版のトルネコやシレンではアニメーションは採用していません。
というのも、このゲームのプレイヤーはウインドウを見たいのではなくて、例えば「イオの巻物」というアイテムの文字を見たいんです。それも、自分の頭の中でやりたいことが決まっている状態だから、すぐに表示して欲しいはずなんです。だから、もうなるべく速く表示できるように工夫しました。そこに時間を掛けてしまうと、いかに美しいアニメーション演出を挟もうとも、やっぱりストレスになってしまうんです。
Q: アニメーションを入れないというのも、中村さんのBダッシュに通ずる、バッサリとした"編集"ですね。
長畑氏: この辺は徹底的にやっていますね。剣を振るアクションについても、常に何フレーム以内というのを決めているんですね。
中村氏: 結局、これは繰り返すことが前提のゲームなんですよ。そもそも同じダンジョンを何回も繰り返して遊ぶし、実際のプレイもBダッシュで動いては戦闘して、下へ降りていくことの繰り返しでしょう。とすれば、その繰り返しをどれだけ苦にさせないかが重要になるんです。手触り感のテンポの心地よさが上手く作れていることは、そこでかなりのアドバンテージになるんです。
長畑氏: そういう意味では、スーパーファミコンはSRAM(※)というメモリを使っていたせいで、すぐに電源がブチッと切れたのも良かったですね。しかも電源を入れたら、すぐにゲーム画面になるでしょう。あれは結果的に、"ゲームをプレイするという行為"そのものに、ユーザーのテンポ感を生み出せていましたよね。
※SRAM Static Random Access Memory(スタティックランダムアクセスメモリ)のこと。記憶保持のための動作が不要な半導体メモリ。ただし、電池がなくなると記憶は失われる。
ローグのとっつきにくさ解消法――3.半透明ウインドウの活用
長畑氏: 一方で、操作系という点では、PCにはないデメリットも出てきたんですね。
『ロ―グ』はPCだったので、ショートカットキーで様々な機能を使えばよかったんですよ。ところが、コントローラーとなるボタンが限られてくるので、インターフェイスの工夫が必要です。RPGと同様に、ディスプレイ上にウインドウを表示してカーソルで選択させる形式にしましたが、どこに情報を配置するのが最適なのかはかなり試行錯誤しましたね。
中村氏: 一つありがたかったのは、スーパーファミコンには半透明機能があったことです。
そこで、画面の上にマップを重ねて、ダンジョンを同時に見ながら進行できるようにしたんです。レイアウトも工夫して、表示されるマップはキャラクターに被らないようにしました。よく見ると分かるのですが、キャラクターが表示される真ん中の部分には、絶対にマップが来ないんです。
Q: (実際に画面を見ながら)本当だ! いや……長年遊んできましたが、まったく意識していませんでした……。
長畑氏: そうなんですよ(笑)。あまり意識されないところだとは思いますけどね。
中村氏: こういう半透明機能の使い方は、たぶんスーパーファミコンのタイトルでも初めてだったと思います。
半透明機能は他にも色々と役立ってます。このゲームは大量のアイテムを何回も見る必要があるのですが、アイテム欄を見る際にダンジョンの様子が同時に見えていると、アイテム選択がとても楽になります。もし黒塗りにしてダンジョンが完全に隠れていたら、自分の置かれている状況を正確に記憶したまま、アイテムを探しに行かなければいけない。これは、かなりのストレスですよ。
Q: 確かに。ちなみに、ずっと昔から気になっていたのですが、満腹度って凄く重要なパラメーターなのに、なぜゲーム画面に表示されていないのでしょうか?
長畑氏: 満腹度の表示場所には、大変に困った記憶がありますね(笑)。最終的には、できるだけ画面の上の部分はシンプルにするべきだろうと考えて、載せない判断をしたんですね。
中村氏: あと、「満腹度」というのは空腹ギリギリの5%くらいになって、初めて重要になる値じゃないですか。そうなると、実はゲームをプレイしているほとんどの時間では不要なんです。だから、危険になってきたら警告を出せばいいだけだと思ったんです。
Q: なるほど! でも、空腹度を警告だけにしたのは、プレイヤー目線では妙にリアリティがあった気もします。だって、現実の我々の人体が感じる順番も、空腹感に気づいたときには既に空腹になっていて「なんか食べなきゃ」と思う……という感じじゃないですか(笑)。
中村氏: 確かに! そうかもしれない(笑)。
ローグの翻訳における謎
Q: ただ、面白いことに、これだけ世界観を受け入れやすくするために、徹底的に工夫している一方で、『ローグ』の基幹となるシステムについては、ほとんどいじっていないですよね。
中村氏: ここまでお話ししてきたように、当時のローグ系のシステムに付け足したことは多いんですよ。一方で、ローグ系のシステムから『トルネコ』にするにあたって捨てたものは……大きなものではダンジョン内のお店くらいじゃないですか。
長畑氏: それは世界観の問題でしたからね。『シレン』はダンジョン内のお店から泥棒ができますが、さすがに「世界一の武器商人が泥棒しちゃいかんでしょ」という話になったんです(笑)。
中村氏: ただ、『ドラクエ』の世界観をかぶせて『ローグ』が圧倒的に受け入れやすくなった分、その裏返しとして、レベルが戻ってしまう"不思議のダンジョン"なのだという説明が必要になった面はありますね。
Q: そもそも実は『ローグ』って、アーケードゲームのように、単にゲームオーバーになったら一からダンジョンをやり直すだけなんですよね。
中村氏: 『ドラクエ』はストーリーの中で表現する以上、ダンジョンがいくつも登場してくるので、プレイヤーの体験は「毎回ゼロからやり直す」という行為になってしまうんです。実際、堀井さんから「これは、ゲームが苦手な人にはあまりに厳しい」というアドバイスをいただきました。そこで取り入れたのが、トルネコが道具を持ち帰ってお店を大きくしていくという、育成ゲームの要素です。
ちなみに、他にも堀井さんからは「最初は素手じゃなくて、何でもいいから武器を持たせるのが大事なんだ」みたいな、大変に含蓄のある言葉なども沢山いただいて、ゲームに活かしましたね。
――ただ、やっぱり分かりにくさは残ってしまいますよね。
長畑氏: ゲームを説明しやすくなった面はありますよ。「死んだら何もなくなるRPGなんです」「えっ、そんなに酷いゲームがあるの?」となるんです(笑)。
一同: (笑)
Q: 確かに、あまりにショッキングなので「とりあえず話を聞かなきゃ」と思いますよね。
長畑氏: 当時からそこは中途半端にオブラートに包まずに、「レベルは1からです。アイテムも消えます」と、もうスッパリと誤解なく打ち出していこう、という雰囲気でしたね。
中村氏: それに、当時の僕たちが考えた『ローグ』の面白さというのは、何回も遊べることだったんですね。ダンジョンやアイテムの配置も毎回違うし、最初に拾うアイテムが何かもわからない。でも、スキルと戦略が自分の中に育っていけば、どんどん楽しみが広がっていく。レベルを残してしまうことは、その面白さを邪魔してしまうから、やっぱり取り入れられませんでした。
Q: 色々と面白くする工夫をしてきたけれども、それも全ては『ローグ』にお二人が感じられた面白さをプレイヤーに届けることにあったのだ、と。でも、これだけの熱意と工夫があっても、社内では厳しい目にさらされていたというのは悲哀がありますよね(笑)。
長畑氏: アイテムがなくなるわ、レベルが1に戻るわ……というゲームデザインに対する抵抗感は実に大きかったですよ。それまでゲームについてアツく語っていたスタッフたちが、徐々に「いや、他の仕事で忙しいんで……」なんて言い出すようになったのを覚えています(笑)。最後の方には、「これ、本当に面白いのか?」という空気になっていましたね……。 まあ、その時点でも僕は面白さには自信があったのですが、売れるかどうかという点では胃が痛かったのは間違いないです、はい。
Q: 中村さんはどうだったんですか?
中村氏: 私は『ローグ』というゲームの面白さを確信して作り始めたので、自信は持っていましたよ。もちろん、なかなかこの面白さにピンと来ない人たちに、どう届けるべきかは考えていましたが。
Q: 結果的には、お客さんにはお二人の感じていた『ローグ』の面白さは伝わったわけですよね。
中村氏: でも、ずいぶんとグラフィックのコストは掛かってしまいましたけどね。「あれ、こんなはずじゃなかったぞ」みたいな(苦笑)。
長畑氏: ちょっと当初の想定とは違っていましたね(笑)。
ダンジョンのグラフィックを作りこむのは当然考えていたのですが、やっぱり地上のグラフィックもしっかりと作りたいし、そこにトルネコの家が大きくなる要素まで入れると、今度はシナリオも必要になるわけです。そうやって面白さを詰め込んでいると、どんどんコストが跳ね上がっていくんです。
中村氏: それに、実は『トルネコの大冒険』が出るまで、『ドラクエ』のモンスターのグラフィックは正面の一枚絵だけで、後ろ姿がなかったんです。動きのイメージも、テキストメッセージから想像してプレイヤーが補っていました。だから、公式に描くのはこのゲームが初めてで、堀井さんや鳥山さんにだいぶ確認をしました。
長畑氏: 普通のRPGの立ち絵では見えない部分を、しっかり8方向の動きから作りこまねばならないんです。『ローグ』は「@」のようなアスキー文字がただそのまま動いていくだけなので、ついコストが掛からない気がしてしまったというだけだったんですね(笑)。
Q: ただ、『不思議のダンジョン』の良いところって、そういう普段は想像力で補っていた部分が、グラフィックで見えるところにもあると思うんです。やっぱり、プレイヤーとしては嬉しいですよね。
エクセルシートでデータ管理!?
Q: 『トルネコの大冒険』の誕生秘話をひと通りお伺いしたところで、お二人に今日は「不思議のダンジョン」シリーズのゲームデザインをお伺いしてみたいんです。実はこの「ゲームの企画書」のテーマの一つが、日本のゲームクリエイターに日本の開発者ならではのゲームデザインを聞いていくことなんですよ。
中村氏: なるほど……。これは思いつきくらいに聞いてほしいのですが、海外のゲームがリアリティを大事にしているのに対して、日本人は記号的な表現が得意だなという印象は持っていますね。マンガやアニメにも言えることかもしれないですが。
Q: まさにそういうお話を伺いたいのですが、改まって聞くと皆さん、「なんとなくがんばって調整して作っているだけだからなあ」という返答になってしまうのも事実でして……(笑)。
長畑氏: でも、「なんとなく」というのは、私もそうですよ。
例えば、『不思議のダンジョン』って、アイテムやモンスターのデータをエクセルで管理しているのですが、私はそのデータ表を見ればどういうゲームになるか、ある程度まで判断がつくのです。でも、それって「何となく」としか言いようがないんですね……。
中村氏: それ、ウチでも長畑さんにしか出来ないんだよね(苦笑)。だって、何千列もある表ですからね。
Q: えっと……。まずエクセルで管理されているのに驚くのですが(笑)、それはともかく何だか凄いことを聞いた気がしておりまして、詳しくお伺いさせていただけますでしょうか。
長畑氏: いやいや、大したことじゃないんです。
ただ、ゲーム開発というのは、なかなか時間がないものなんですよ。そこで、ウチにはエクセルに「こういうアイテムやモンスターが出る」という基本になる表がありまして、それを数字をいじったりして、並べ換えていくんです。そうすると、大体こういうゲームになるんじゃないかと頭のなかで分かるので、あとはゴリゴリと納期に向けて作っていくんです。
Q: ……表を見るだけで分かるものなんですか?
中村氏: だから、それは長畑さんだけです(笑)!
長畑氏: (苦笑)
うーん、でも数字があって、大体これくらいの確率があると表に書かれているわけで、なぜわからないのかと僕は周囲に聞きたいくらいなんです。「説明しろ」と言われても困るという話で……。まあ、もちろん完成形まで完璧に見通せることはなくて、調整の作業はもちろん大事ですから、そこは勘違いしないでいただければと思いますが。
Q: それは、あるときに開眼したんですか? それとも最初からですか?
長畑氏: 最初からそうだったと思いますよ。特に最初の方は、データ量が少ないじゃないですか。増えてくると徐々に大変にはなってきたのですが、『風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!』(Nintendo 64・2000年)くらいのあたりで、データ量が多いことに頭が慣れてきたんです。それで、「まだ行ける! まだ行ける!」という感じでデータを増やすのに対応してきました。
Q: 『シレン』って、一つでもピースが間違っていたら成立しないゲームで、トータルの完成度が他のゲーム以上に問われるはずなんです。なので……繰り返し聞いてしまって恐縮なのですが、「なぜこのゲームで、それができるの?」という謎がありまして。
長畑氏: いや、ですから秘密も何も……(苦笑)。
中村氏: うーん、これはもう長畑さんの凄さだと思うんですよ。
長畑氏: もちろん100%隅々までわかるというわけではありませんよ。私は、別に計算が得意な人間ではないんです。
ただ、並んだ数字を見れば、そうですね……7~8割ぐらいで、ダンジョンの難易度やどこにアイテムを置くべきかが何となく分かるわけです。そこで、ゲーム開発をする前にひな形になるエクセル表を僕が仕上げて、それを調整していくわけですね。
Q: ……ほむ。
中村氏: まあ、そういう感じですから、長畑さんに何かがあったら、もう『不思議のダンジョン』は作れないんですよ(笑)。
一同: (笑)
長畑氏: いや、いや! 買いかぶりすぎですよ。やってないと時間がかかるだけです。慣れにすぎません。
中村氏: まあ、100倍くらいかかりそうですけどね(笑)。これついては、本当に凄すぎるんです。
Q: 長畑さんのこういう能力って、他の場所でも使われていたりするんですか?
中村氏: 長畑は大学時代から、競馬が好きなんですよ。確か、自分が始めてからのG1レースのゴール前は全部記憶にあるという話があったよね?
長畑氏: いや、いや、さすがにそれは昔の話ですよ。当時は、どの馬が勝ったかだとか、その勝ち方だとかを覚えていましたが、それは特に凄いことではないです(笑)。
乱数の調整について
Q: もはや、日本のゲームデザインの謎というよりも、単に長畑さんの"脳の謎"のほうにみんな注目し始めているので、もう少し理論的な話題をしましょう(笑)。例えば、以前にインタビューした『桃鉄』のさくまあきらさんが、人間の確率計算を野球の打率のアナロジーを使って、かなり細かめに出しているという話をされていたんです。まさに、このゲームもそういう部分が重要だと思うんです。
長畑氏: ああ、そういう話で言えば、このゲームを開発していると、実は人間の感覚がいかに実際の確率とリニアに対応していないかを痛感しますね。
例えば、「10%で起こる」という数学的な確率と、「このアイテムって10%くらいの確率で出るよね」という体感での確率は違うんです。これは場合によってバラバラなのですが、5%にするとそう思ってもらえるときもあれば、15%にしてやっとそう思ってもらえる場合もあるんです。
Q: 体感値としての10%を設計するためには、本当に10%にするのではなくて、少しズラすのが大事になってくる、ということですか。
長畑氏: 具体的な作業で言うと、「10%くらいでイベントが出る感じを出したいな」と思ったときに、そのままの数字では物足りないと感じれば、徐々に上げていくわけです。
ここで面白いのが、例えば15%にしても19%にしても特に変化が起きていないように感じるのに、20%にした瞬間に「あ、出方が変わったぞ」となることがあるんですね。どうも人間の確率に対する感覚というのは、階段状に作られているように思えますね。その辺の感覚値は、長年の経験で他の人よりもだいぶ溜まっている気がします。
中村氏: たぶん、大抵の人は10%という数字を、10回に1回起きることだと理解してしまうんです。
でも、数学上の10%というのは、違うでしょう。例えば、5回目で出たあとに、何十回も出ない状態が続いて最後にドンドンドンと出てきたとしても、確率的には10%で正しいというのはあるじゃないですか。でも、人間の感覚は、それを10%とは受け入れがたいんですね。
長畑氏: ええ。ですから例えば、「5回目までで起こらない確率が半分」というくらいの感じで作ると、上手く10%に感じられたりするわけですよ。
この辺の人間の確率をどう捉えるかは、色々なコツがあるんです。例えば、仮にある武器の命中率に85%と90%の差をつけたとしますよね。これは、単に5%しか差をつけていないのですが、プレイヤーは大変に大きな差を感じてしまうんです。それってすごく不思議に思えますが、逆にこれを「命中しない確率」だと思ってみて欲しいんです。
Q: あっ、10%と15%で、1.5倍になる。これは、かなり大きな違いですね。
長畑氏: そうなんです。そして、このタイプのゲームで記憶に残るのは、上手く行かなかったときなんですよ。こういう人の感覚に対する理解は必要だと思いますね。
Q: それは、テスターさんの意見などから判断して調整されているんですか?
長畑氏: どうもプレイヤーの感想で、際立ってアイテムが「出やすい」とか「出にくい」とかの感想が出てくるポイントがあるんです。それが我々の実際に入れている確率と、どうもズレているし、一方でなにか同じ傾向のズレ方をしているんですね。これがずっと続いてきたことが、こういう話を考えるきっかけになりました。
Q: そういう話でいうと、『不思議のダンジョン』では、よく「やけに食べ物がなかなか出ないぞ」とか「10階まで来たのに武器がまだ出ないじゃんか」という思いを抱くことがありますね。
長畑氏: まさにこういう話を逆に利用して数字をいじるときもありますよ。つまり、出やすいと感じないギリギリのところで確率を調整するんです(笑)。
「すごく出るようになったぞ!」と感じるほどではないけど、「元々よりはちょっとは出やすい」というあたりの確率を狙うんですね。たった数%の違いだったりするわけですが、これが毎回違うプレイ感を出すのに効果的な場合があります。
Q: さくまあきらさんは、『桃鉄』を作る際に「野球の打率を参考にして、3割打者と2割7分の打者の差みたいな体感を参考に数値を入れている」とおっしゃられていたのですが、まさに数%の差が重要になったりするんですね。
長畑氏: 実際のところ、テストプレイを1000回単位でやらせてみると、ある1%を境にプレイヤーの「当たりやすい」「外れやすい」の評価が切り替わることはザラです。例えば、これは大事なノウハウでもあるので記事では値は伏せていただきたいのですが、「◯◯」についての数字なんて、◯◯.◯%の確率の辺りに最適解があって、そこから少しでもズレたらプレイヤーから「多すぎる」「少なすぎる」と苦情が来はじめると分かっています。
Q: ……そんな精度で調整しているのですか。
長畑氏: 『シレン』の話でいうと、アイテムを投げて当たる確率と剣が命中する確率は、実際に設定された数字では数%しか違わないんです。でも、ゲームをプレイしていると剣はほぼ外さない安心感があるのに、アイテムを投げて外れることは多い気がするでしょう。
Q: まさに、さっきの「命中しない確率」の話ですね。剣に比べて矢は外れやすい、という印象でしたが、実際はそんなに数値上の差はない、と。
長畑氏: そうなんです。ゲームのデザインとしては、遠くから矢が当たりすぎてしまうと、近くで剣を振るう間もなく倒してしまうので、面白さに欠けてしまいます。だから外れやすくするんですが、そこで外し過ぎても面白くないし、ストレスになってしまう。そのときに必要なのが、「感覚的に外れやすいと感じる値」なんです。 ちなみに、アイテムを投げて当たる確率を1000回単位で統計を取ると3回連続で外すことがわりと起こりうる値なんです。これが剣の方になると、それはまず外れることは計算上起きづらくなるんです。たった少しの差なんですけどね。
Q: 確かに、3回連続外すというのは、相当に引きが悪く思えますね。
長畑氏: そう。で、そんなふうに3回連続で外れることが1日のうちに1回起きるだけでも、強く印象に残ってしまう。こういう部分をうまく調整しておくと、「肝心なときにアイテムや矢を使うのを避けてしまう」みたいな心理が生まれて、そこがゲームデザインの妙になったりするわけです。
Q: それによって、プレイヤーが消極的な行動を取るであろうという予測を、ゲームデザインの中に盛り込んでしまう、と。
長畑氏: そうです。
例えば、「次のターンに殴られるとゲームオーバーという状況で、果たしてユーザーはアイテムを投げてくるのか」というのはゲームデザインを考える上で、かなり重要な問題です。でも、僕らはこの辺りのユーザー心理に対して感覚値を持っていますから、本当は使った方がよい場面でも、きっと「いやいや、絶対無理……」となってしまうんだろうな、と予測できるわけですね。
Q: 聞きながら『ファイアーエムブレム』(※)を思い出していたのですが、あのゲームも98%の攻撃で外すことが結構ある印象なんですよね。
※『ファイアーエムブレム』 任天堂から発売されているシミュレーションロールプレイングゲーム (SRPG) 。各アイテムに命中率が記載されている。
長畑氏: ああ、そうですよね。こっちは確率の数値は公開していないのですが、一回の探険で剣を振る回数が1000回を超えることなんてザラですから、そこから体感値が生じてくるのだと思います。
Q: ちなみに、長畑さんは他のゲームをやっていても、そういう数値のトリック感が見えたりするものですか?
長畑氏: いやあ、ほとんど見えないですね(笑)。
この辺の数値はゲームごとに最適な値が違うから、何か法則のようなものを見出すのは難しそうです。ただ、そういう工夫というのは、どんなゲームでも絶対にあるはずだと思います。
ゲームにとってのストレスとは?
Q: しかし、こういう確率のような話は本当に面白いですね。実際の確率と体感の確率の差へのこだわりは、ギャンブラーならではの発想かな……と思ったりもしましたが(笑)。
長畑氏: それは、あるかもしれないですね(笑)。
あと、確率といえば、「必中の剣」(※)というものを入れたことがありました。まあ、あれはゲームが単調になってしまうので、反省したという例ですけれども……。「これさえあればクリアできる」という安心感を作ってみたのですが、やはり『不思議のダンジョン』の大事な部分を壊している気がしました。その後は、「必中」に相当するものはゲームを一度クリアするまでは、出さないようにしています。
※必中の剣 武器攻撃が必ず命中するようになる剣。『シレン』や『トルネコ』で登場した。
Q: そこはぜひ、もう少し詳しく聞いてみたいです。いま、プレイヤーにストレスをかけさせない設計のゲームが増えてますよね。ただ、一方でゲームにプレイヤーが求める面白さには、絶妙なストレスを味わいたいという気持ちもあるはずなんです。その意味で、『シレン』はその最高峰にあると思います。
長畑氏: RPGというジャンルは、時間をかけて努力して、盤石なところに自分の塔を積み上げていく楽しさがあるんです。でも、このゲームの場合にはレベルがすぐに戻ってしまうわけですから、その土台が非常に危ういんです。だから、「こんな場所で積み上げさせるな」という意見がもっともだし、一方で「いや、こういう氷の上みたいなキワドいところで積んでいくのが面白い」という意見もあるということでしょうか。
Q: そういう視点で興味深いのが、中村さんが以前、雑談で「『トルネコ』に入れられなかった要素を『シレン』に入れた」というお話をされたときに、「壺のシステムが大きかった」とおっしゃっていたことなんです。
中村氏: ゲームというのは、自分自身やアイテムそのものがちょっとでも成長したり蓄積していく要素がないと、長く続けられないんですね。
そういう意味では、壺を入れてアイテムそのものを変化させられるようにしたのは、その要素の幅を上手く広げられた気がしています。『ローグ』にはなかった要素ですが、このゲームシステムに与えた影響はかなり大きかったはずです。
Q: しかも、あの壺があることによって、何かサバイバル感のようなものが高まったんですよ。「保存の壺」(※)に、何か大事なものをしまいこんでいたのに転んでしまう……とか、よくあるじゃないですか(笑)。
※保存の壺 アイテムを出し入れできる壺。通常の壺はアイテムを取り出すと割れるが、この壺の場合には割れない。
長畑氏: あの「保存の壺」が与えた影響は面白かったですね。効果としては、単にウインドウ枠が広がっただけなのですが、毎回のゲームで持てるアイテム数が大きく変動するようになったでしょう。しかも、転ぶと割れる(笑)。
元々は、「ダンジョンで所有できるアイテム数が少なすぎる」という問題意識から出てきたんです。でも、そこで単にウインドウを増やすのではなくてアイテムで解決したところが、ゲームらしいというか我々チュンソフトらしいと思うんですね。一気にゲームの作戦や戦略が変わってきました。
それに、そもそもウィンドウを1枚増やしたところで、アイテムが一杯になるストレスはどこかでやってきますからね。
Q: 確かに! ゲームデザインの一部へと昇華することで、「多くのアイテムを持てない」というストレスが、逆に戦略の問題に変わったというわけですね。こういうストレスに対する納得感の作り方というのは、面白いですね。
長畑氏: 「納得感」というのも大事な要素ですね。そういう意味では、罠(※)なんかは気をつけてます。
罠なんて、部屋のマス目を全て数えても5~6個ですから、確率的にはほとんど踏まないはずなのに、やはり一度した苦い体験は覚えているものです。ただ、やっぱり理不尽さはあるのは否めないんで、剣を振ると罠が見えたり、アイテムとして目薬草を作っておいたり、という回避策も同時に投入しました。
※罠 「不思議のダンジョン」では、ダンジョンを移動中に突然「地雷」や「落とし穴」などの「罠」が登場してくる。
Q: さくまあきらさんは、キングボンビーについて、「ボンビーを他人になすりつけられなかった負い目があるから、プレイヤーがあんな理不尽なものを受け入れてしまう」という話をされていたんです。納得感を作るために避け方を用意しておくのは、一つコツなんでしょうね。
中村氏: まあ、想定していない「意地悪」もあるんですけどね。僕は、初めて「合成の壺」を割ろうと思ったときに、「遠投の指輪」を使っていたせいで、割れなかったことがあったんです。もう真っ青になって、「バグを見つけてしまった」と報告に言ったら、「あ、これは仕様ですね」と言われたんです(笑)。
長畑氏: まあ、「文句を言われる可能性があるなら、罠なんてやめればいいじゃん」と考える人もいると思うんですが、ああいう意地悪な仕掛けで適度に刺激や不安を与えていくのも、単調さを回避するためのゲームにおける大事な手法なんです。一つの面白さの軸でしか楽しめないゲームなんて、やっぱりつまらないですしね。
でも、そういう「理不尽」をメインには据えないように気をつけています。ボスを倒すのにそういうものを乗り越えていくのはしんどいです。あくまでもサイドのお遊びにそういうスパイスがあって、メインにはそのゲームの奥深い難しさがある、というのが正しいと思っています。
Q: そういう奥深い難しさを楽しんでくれるような、明らかに上手なプレイヤーさんがいるのも『不思議のダンジョン』の凄いところですよね。
長畑氏: ええ。私もリリースされた瞬間だけは、たぶん日本で最も上手なプレイヤーだと思いますが、きっと数時間後には彼らに抜かれていますね(笑)。
ちなみに、『不思議のダンジョン』が上手なプレイヤーは、一言でいうと積極的な人ですね。やはり道中でトラブルが発生するのは避けられないゲームなので、「順風満帆ではない旅」を楽しめるような前向きな性格で、自信を持って進められる人のほうが全体的に上手だと感じています。
Q: 「自信」ですか。
中村氏: そこだけ聞くと、スポーツ選手みたいだよね(笑)。
長畑氏: ただ、その自信というのは、繰り返してプレイする「慣れ」が生む面も強いと思いますよ。
アイテムの使い方やモンスターハウスの対処法など、そういうスキルの積み上げが大事なんです。実際、先ほどの確率の体感値の話なども、繰り返してプレイしていくと実際の確率の値を肌で覚えていきますからね。それに対して、自信がない人はプレイが消極的なんです。そして、その経験量の積み重ねの差が開くうちに、どうにも追いつけなくなっていくんです。
だから、最終的には「自信を持っている人」という回答になるんです。実際、一度最後までクリアすると、急に上手さが一段上がるのをしばしば見かける気がします。
Q: 本当にスポーツ選手みたいですね(笑)。
長畑氏: ただ、「引きの良さ」の問題だけはありますけどね。確率を決めている自分が言うのも変ですが、このゲームに対して明らかに運が良い人間と悪い人間はいます。これは理屈では説明がつかないけど、どうしようもない(笑)。
Q: 麻雀なんかで「運」の存在を感じる人は多いと思うのですが、こういうゲームでもありますか。
長畑氏: 実は、このゲームのメインの開発プログラマのうちの一人が、もうビックリするくらい引きが悪いんです。でも、お陰でバグチェックに大変に役立っています(笑)。
『不思議のダンジョン』がゲーム実況で人気の理由
Q: 近年、ゲーム実況でも『シレン』は人気が高いんですよ。先日、有名なゲーム実況者の人にお会いした際にも、「スパチュンさんには、『アスカ見参』(※)を何とか再販してほしいよね」なんて言われたりして(笑)。
※『アスカ見参』 『不思議のダンジョン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参!』(ドリームキャスト/Windows・2002年)。
長畑氏: 『アスカ』をいまだに遊んでいてくださる人が結構いるらしいとは聞くんですね。ありがたい話です。それにしても、ゲーム実況で人気というのは初めて聞きました。
Q: 実況者の人たちに「シレンがいかに実況向きのゲームか」を聞かされたことは、何度もあります。まずランダム要素が強いから、何回でも楽しめる。しかも、罠のような理不尽さも適度にあって、みんなで笑いあえる。その上、中村さんがおっしゃていた「自分自身のスキルを上げていくところ」があるから、人によってプレイが個性的になるんですね。
中村氏: そういう意味では、このゲームは他人がやっているのを見るのがとても楽しいゲームだとは思いますね。不思議なくらいに不幸が連鎖したりするじゃないですか。この「やってしまった感」というのが楽しいですよね(笑)。
Q: モンスターハウスで実況者が慌てているというのが、定番の見どころですからね。あと、このインタビューの準備をしながら、編集部で「風来救助隊」(※)ってネット向きだよね、という話をしていたんです。
※風来救助隊 『風来のシレン』をプレイしている友だちに、Wi-Fiや通信ケーブルを通じて救助を頼める仕組み。
中村氏: そうそう、そうです。当時、ちょうどインターネットっていうものが流行り始めた頃で、パソコン同士でメッセージの交換が始まっていたんです。
長畑氏: iモードの『シレン』でもそういう機能を使って、プレイを再現していましたね。 元々は、こういう難しいゲームを好きな人ってなかなか人に自慢する機会がないので、「俺はこれだけ凄いことをやったんだ」と見せびらかしてもらうために考えたんです。ただ、やっぱりゲームとしての面白さに結びつけたいので、人を助ける行為によって表現してみたんです。
中村氏: この開発で面白かったのが、基幹プログラムの設計が少し変わった形になっていたおかげで、機能を入れられたことなんです。
実は、このゲームのプログラムは1ターンずつの情報を全て覚えている仕組みなんです。一番最初のフロアのランダムのシードと全ての状態を覚えておいた上で、一個ずつの動作を記憶しているんです。だから、死んだところまでを全て再生できるんですよ。これがもし最終ステータスだけを覚えているプログラムだったら、この機能は投入しなかったと思いますね。
Q: なぜ、そんなプログラムにしていたのですか?
長畑氏: それが、当時のスーパーファミコンのメモリにおける制約からだったんです。実はセーブの際に、こっちの方がメモリが少なくて済んだんですよ。
中村氏: 意外に思われるかもしれないですが、実はセーブ時点でのフロアの情報を全て覚える方が大変なんですよ。広大なマップのどこに何が置いてあるのかの情報を全て取得するより、ランダムのシードと何をやったかだけを蓄積していく方が、総容量が少ないので簡単にセーブできてしまうんですね。
長畑氏: まあ、ただこの手法は途中で乱数が狂ってくるという問題がありましたけどね。そこをいかに気を使ってプログラムしていくかが重要なんです。追加仕様を入れた際にも、ちゃんとセーブに対応するかを考える必要があったので、負担も大きくはあります。
中村氏: ただ、こうすることの多大なるメリットとして、バグを必ず再現できるというのがあったんですよ。これはかなり開発に貢献しました。すぐに「このバグだよ~」と見せられることなんて、普通はなかなかないですから(笑)。
長畑氏: まさにリプレイになるわけです。そこで「終わったあとにみんなで見られるのも楽しいよね」なんて話しているうちに、「救助に使ってはどうか?」という発想に発展していきました。
中村氏: しかも、あまり長くないパスワードで再現できるのも素晴らしいところでしたね。そこに気がついたプログラマーは偉いと思います。
Q: こういう仕様レベルからの着想というのは、開発者の方に聞かないと分からないですね。でも、今だったらリプレイ機能も簡単に動画にして上げられそうですし、その辺もネット向きですよね。
長畑氏: 昔から、ウチは「ちょっとずつ早い」と言われていて、いつも社内で嘆いているんです。我々がやってきたことは、いつも時流に乗れていない(苦笑)。
Q: いえ、むしろ時流を作っていらっしゃるのでは?
中村氏: ……すごいなぁ! その表現は素敵ですね。
うれしいですね。今後はそっちに変えていきましょう! 「早すぎる」じゃなくて、僕たちが「作っている!」と(笑)。
不思議のダンジョンの魅力
Q: 実際、それこそ最近ニコニコで話題の自作ゲームなんかでも、RPGやノベルゲームは言うに及ばず、ホラーゲームもローグライクも大人気ジャンルですからね。彼らの源流にあるもののかなりの部分が、実はチュンソフトの名作群なんじゃないかと思うくらいです。
長畑氏: いやあ、ありがとうございます。もし『不思議のダンジョン』がネット対応できる良い企画があれば、この東銀座に持ってきますよ(笑)。
Q: お待ちしております(笑)。それでは、最後にファンの方に向けて、なにかコメントをいただければと思います。
中村氏: やっぱり、『トルネコ』や『シレン』に限らず、今まで『不思議のダンジョン』シリーズを遊んでくださった皆さんには、本当に感謝しているんですよ。だって、一つのゲームで遊ぶ時間としては明らかに長いし、プレイ回数も多くなる類のものなんです。だから、きっと本当にいっぱい遊んでいただいているはずなんですね。ありがたい話です。
Q: 達成感のあるゲームという意味では、かなり頂点に来るようなゲームだと思います。
中村氏: クリアできないと、次を買っていただけないタイプのゲームである気もして、なかなか大変ではあるんです。それに、達成感があまりに高すぎるゲームって、実は物足りなさが消えてしまうので、商売としては次回作を買ってもらえないという悩みもあるんです(笑)。
でも、お話を楽しむよりは、新しいシステムの魅力や複雑さを味わっていただくゲームである以上、そこは僕らとしても"宿命"だと思っています。それだけに、これだけシリーズが長く続いているのは、やはりファンの方たちの応援あってこそなんだと、本当に思います。
長畑氏: ええ、そこは手を抜いちゃダメなんです。
その問題については、僕は毎回、新しいゲームデザインを投入していくことで対処していくしかないと思っていますね。もちろん、初心者の人にもしっかりと遊んでもらえるように、チュートリアルやシナリオにも力を入れつつ、ですけどね。
やっぱり、これまで20年間、長いこと『不思議のダンジョン』を作ってきて、ファンの人にパワーをいただいてきたな、と本当に感謝しているんです。その上で思うのは、僕としてもまだちょっとやり残していることがあるな、ということです。それを実現するために頑張りたいので、皆様には今しばらくお付き合いいただけるとありがたいな……と思います。
Q: おお! やり残したことというのは?
長畑氏: 実は、2つだけあるんですよ。でも、それはここで話すには長くなってしまいそうです(笑)。
Final Note: ぜひプロダクトの形で、表に出るのを心待ちにしたいですね。今日はありがとうございました。(了)
3時間にわたるインタビューを通じて見えたこと――それは、『ローグ』を『不思議のダンジョン』に作り変えるにあたって、当時のチュンソフトがいかに心を砕いて、その面白さを「翻訳」したかということである。
根幹にあるのは、もちろん『ローグ』というゲームに覚えた「感動」であったにせよ、ユーザーに手に取らせてその面白さを伝えるために、企画からUI、ゲームシステムに至るまで徹底的に行われた心配りの数々は、日本的なゲームデザインの職人芸の凄みを伝えるに十分な内容であったように思う。
ちなみに、これは筆者個人の感想であるが、当日彼らの話を聞きながら、ふと「これは"編集"ではないだろうか?」と思ったのも記しておきたい。『ローグ』というあまりにも無骨なゲームを、『ドラクエ』と絡めるなどの企画性で補い、多彩な罠やツボなどのドキドキする要素を投入して飽きさせない作りにする。あるいは、徹底的にビジュアル面や手触り感にもこだわり抜く……こういうユーザーに向き合った直しの数々は、ポテンシャルを秘めた文章や漫画に対して、優れた編集者が行うアドバイスにどこか似ている。
そういう意味では、『ウルティマ』や『ウィザードリィ』を換骨奪胎して日本製RPGの文法をつくり、あるいはアドベンチャーを『弟切草』などの「サウンドノベル」に生まれ変わらせたチュンソフトだからこその、この優れた翻案があったのかもしれない。面白いものを作るだけでなく、その面白さをいかに人々に「伝える」か――ゲームに限らず、何かを生み出す仕事に関わる人であれば必ず直面する、この困難な課題へのヒントがたくさん詰まったインタビューであったように思う。